MetaMoJi Share 事例紹介

01. 「国・行政のあり方に関する懇談会」におけるコ・グラフィック・レコーディング

2013年10月から2014年5月まで政府の内閣官房行政改革推進本部のもとで、「国・行政のあり方に関する懇談会」という会議が開かれました。

行政改革担当の稲田朋美大臣も出席するこの会議、2014年1月30日に開催された第4回で、会議出席者の議論をリアルタイムに視覚化するツールとして、「MetaMoJi Share」が利用されました。
「国・行政のあり方に関する懇談会」第4回。活発な議論をと大机は取り払われた。
MetaMoJi Shareは、最大100台に及ぶiPadなどタブレット端末から同時に書き込み、編集し、共有する全員で閲覧することができるグループ・コミュニケーション・アプリです。手書きアプリとして評価の高い「MetaMoJi Share」をベースに、インターネット経由での多拠点間コミュニケーションをサポートするなど、これまでの電子メールやチャット、共同編集ソフトなどではできなかった、手書きでのグループ・コミュニケーションを実現しています。

今回の懇談会においては、MetaMoJi ShareがセットアップされたiPadが会議参加者全員に配布され、2つの目的で使われました。一つは、会議で一般的なホワイトボードの代わりです。もう一つは、会議参加者の意見をリアルタイムにまとめビジュアル化された議事録を作成すること(コ・グラフィック・レコーディング=Co-Graphic Recording)です。
MetaMoJi Shareの書き込みを見ながら次の発言者を決めたと司会の藤城次長。
一つ目のホワイトボードの代替として、会議参加者は、自由議論ノートと題されたMetaMoJi Share上のページに、議論に応じて自由な意見を書き込みました。通常、一般的な会議で、参加者は指名されるまで発言することができません。ところが、MetaMoJi Shareを使うことで、発言の順番以外でも、現在の発言者の意見に対する対論や補足や関連情報などを書き込むことができるのです。

個々の書き込みは、参加者間で共有されている1枚の「ノート」上に表示されるため、司会者は、発言者の意見を聞きながらMetaMoJi Shareに書き込まれた意見を見て、そのときどきの議論の内容に応じた発言者を指名しやすくなります。
この懇談会でMetaMoJi Shareを使った議論を行うことを決め、当日は司会も担当された内閣官房行政改革推進本部事務局の藤城次長に、後日のインタビューで、次のように語っていただきました。 「この懇談会では行政サービスの改善、パフォーマンスをよくすることを視野に議論しようと思っています。MetaMoJi Shareにより、まさに議論を国民の皆さんに分かりやすく提示できるのなら試してみたいと思いました。」

「通常であれば、発言してもらって初めてその人の考えが分かります。今回は、書き込まれた意見を見て、この人はこういう意見があるんだな、この人はこういう話をしたいんだな、ということが事前に分かりました。それで、この人から先に話してもらおうという順番も考えることができました。初めて使ったので、まだうまくできない点もありますが、もっと慣れてくれば、さらに深められると思います。」
内閣官房行政改革推進本部事務局の藤城次長。後日、内閣官房にて。
会議中、MetaMoJi Shareで実際に作成されたグラフィック・レコーディングの画面。
もう一つの目的である、リアルタイムにビジュアル化された議事録作成(コ・グラフィック・レコーディング)は、東海大学専任講師の富田誠先生の指導のもと、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコースの学生たちと、東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程の学生たちがチームを組むことで行われました。

まず、参加者の発言をPCでリアルタイムにテキスト化し、次に、そこからキーワードを抽出、さらにレイアウト、カラー化、イラストの追加などデザインを施すという流れです。

発言からビジュアル化まで、このような過程を経るため、実際には1分ほどのタイムラグが生じます。それでも、全員が、分かりやすくビジュアル化されたキーワードを把握できるため、議論の流れを共有することができます。政府の懇談会は一般的に、発表者が用意したプレゼンシートに従って一方的な説明に終始することが多い中、実質的な議論を深める上で、多大な効果があったと言うことができます。
グラフィック・レコーディングは、いわばビジュアル化された議事録であり、決定に至るまでのプロセスも含めて視覚化するのが特徴です。文字と概念を図にすることで、直感的で分かりやすくなります。欧米では、ビジュアル・ミーティングや、グラフィック・ファシリテーションなどと呼ばれ一般化しつつあり、日本でも、ブレインストーミングやワークショップ、学会での議論などで取り入れられています。ただし、模造紙やポストイットを使うアナログ的な手法で行われるのが一般的です。

ポストイットなどを使うアナログ的な手法では、文字が小さく、後方からは読みにくいなど、人数が増えると難しい面があります。そこで今回の懇親会では、参加者それぞれがiPadを手元に持ってMetaMoJi Shareの機能を使ったグラフィック・レコーディングの手法に取り組みました。
会議中の学生チーム。合計7人が交代しながら常時4人が分業して作業を行った。
会議の環境と進め方を変えてと提案されていたロフトワーク代表取締役・林千晶さん。
この新しい試みは、株式会社ロフトワーク代表取締役で、MITメディアラボの所長補佐も務める林千晶さんの提案が発端です。「パラレルで動いている参加者の思考をあぶり出すような進め方をやらないと、割り当てられた3分だけ話しても意味がありません。消えてしまう議論ではなく、形になり、どこがポイントだったか皆が共通の認識として持てるような議論の進め方にぜひチャレンジして欲しい」と事務局に伝えたそうです。

そして、林さんが相談した富田先生が、「議論の可視化が図れ、リアルタイムに共有できるツールがある」とMetaMoJi Shareを使うことになったとのことです。
実際に使ってみて、林さんは次のように語っています。
「会話によって生まれる創発的なところと、キーワードはどこなのかまとめて共有することとの行き来がなされたのは面白いと思いました。会話だと、他者の話にインスピレーションを受けて発言するけど、発言している本人さえ何がポイントだったか分からなくなっていることがあります。今回は、自分が文字にすることもできたし、ファシリテーターがキーワードとして文字に残してくれたものもあります。まとめと広がりの行き来が、とても良かったと思います。」

今回の懇談会は、政府の会議であり、新しい試みとして学生たちスタッフの協力もありましたが、MetaMoJi Shareを使うことで、テキスト化やビジュアル化を分業できる点は大きなメリットです。インターネットに接続していれば100人まで共有できるため、テキスト化やビジュアル化を行う人が必ずしも会議の現場にいる必要がないことも特筆すべきでしょう。このようなグラフィック・レコーディングを、外注することさえ可能なのです。
「MetaMoJi Shareは、機能が多く完成度が高い」と東海大学専任講師の富田誠先生。
今回の懇談会で発言者に触発されて意見が書き込まれていったMetaMoJi Share画面。
さらに、会議参加者が、発言とは別に同時に書き込めることで、今回の懇談会で行われたように、発言への補足、エビデンスの提示などを随時、文字ベースで行うことができる点も、議論を深める上で大いに役立つでしょう。共有している資料に色を付けて強調したり矢印などのマークを書き込んで整理することも簡単にできます。MetaMoJi Shareを使うことで、会議参加者が認識を共有することが容易になり、会議を活発化させることが期待できるのです。
会議の模様は、Ustreamでも配信されました。アーカイブも公開されているので、MetaMoJi Shareを使った会議の模様をお確かめください。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kataro_miraiJPN/index.html

<本取材は2014年3月に行われました。画面キャプチャ、機能、肩書は当時の情報にもとづきます。>