(30)生涯現役
いい歳だからこそ心意気
初志を形に、面白いことの連続
現場のIT(情報技術)化への貢献に加えて、知的生産性の向上に貢献するiPad向けアプリを考えた時にこだわったことがもうひとつある。様々な場所に散らばる人たちのチームでの利用だ。この点もまた、いつでもどこでも使えるという新しいコンピューターの能力を引き出すために不可欠な要素だと考えた。
そこで我々はサーバーからアプリまで独自開発し、解像度を落とすことなく高速な情報共有を可能にする「Share(シェア)」という製品を開発した。
すぐに様々な用途に広がったが、その応用例のひとつが「クラスルーム」だ。学校向けの製品開発はジャストシステムの頃から我々が力を入れていた分野である。幸いなことに好評をいただき、eラーニングアワードの総務大臣賞もいただいた。
受賞の栄誉よりずっと誇りに思うことがある。2020年にコロナ禍で一斉に休校になった際に自宅で学校と同じような授業ができたと感謝されたことだ。次代を担う子どもたちのお役に立てることは私や初子、社員たちにとってこの上ない喜びであることは言うまでもない。
iPadというイノベーションに早くから目を付けて、短編動画の配信から一気にシフトチェンジした効果は絶大だったと思う。初子たちと一緒にMetaMoJi(メタモジ)を設立した時には「何かまた面白いことができれば」と考えていたが、実際にやってみれば面白いことの連続だ。eYACHOやクラスルームはその一部にすぎず、ここでは紹介しきれない。
私の思いはジャストシステムで一太郎を世に送り出した時と同じだ。何度か書いた通り、日本人の知的生産性を高める。この一点である。メタモジとなってからも、その志をひとつずつ形にしていると思っている。
ただ、ジャストシステムの時と違うのは、製品開発にいつまでもかかわっていきたいということだ。会社が大きくなると、どうしても社長というのは、製品開発以外で会社を運営するための仕事に追われるようになる。悪く言えば「大型雑用係」のようなものだ。私のような人間には、それがとてもつまらなく思えてしまうのだ。
私は今年5月には73歳になる。30歳の年にジャストシステムを起業し、60歳で再び現在の会社を立ち上げた。だが、精神的には何も変わっていないのだと思う。「いい歳をして」と大人ぶる必要なんてどこにもない。大切なのは「いい歳だからこそ何をやるか」という心意気なのである。
会社員と違って起業家に定年があるわけではない。まだまだやりたいことが山積みだ。あれもやりたい、これもやりたい。そう思い続けて、初子との二人三脚でここまで走り続けてきた。それは今も変わらない。
若かりし頃に吉野川の流れに自分の人生を投影させたことは何度か触れた。私は今もその流れの中にいる。起業を決意した40年以上前と何も変わっていない。大河の流れに会社という木を放り込み、そこにまたがって思い描く夢を実現させていく。そのために、必死に流れの先を目ざしてこいでいくのだ。私はそういう人間なのだろう。
生涯現役。先のことは分からないがこれからも初子とともに、この流れの中に身を置いて夢中でこぎつづけていきたい。それが私の人生だ。